プレス金型の絞りについて

プレス金型の絞りについて解説します。ここではプレス金型(プレス加工)の絞りとはどのような技術であるかをわかりやすく解説するとともに、プレス金型の絞りで使用する金型の構成(パンチ、ダイ、ブランクホルダ)をご案内します。また、プレス金型の絞りのメリットとデメリットや種類、不良例をご紹介します。あわせて張り出し加工やスピニング加工(へら絞り)との違いやプレス金型の絞り以外の加工方法であるせん断加工や曲げ加工(ベンディング加工)、パンチプレス加工、圧縮加工のそれぞれの工法をご紹介します。
目次
プレス金型(プレス加工)の絞りとは
プレス金型(プレス加工)の絞りとは、1枚の金属板をプレスし、形状品を製造する塑性加工です。絞り加工は、金属板に対して一定方向から圧力を加えて成形するため、溶接や切削加工をせずに継ぎ目のない円筒や角筒、円すい形状などの金属製品を製造することができます。納期や価格の面で多くのメリットがあるため、絞り加工は幅広い製品に採用されています。
プレス金型の絞りで使用する金型の構成
プレス金型の絞りで使用する金型の構成について解説します。プレス金型の絞りで使用する金型は、パンチ(雄型)とダイ(die、雌型)、ブランクホルダで構成されています。ここではパンチ(雄型)、ダイ(die、雌型)、ブランクホルダのそれぞれの機能や役割などをご案内します。
パンチ(雄型)
パンチは後述するダイと対をなすもので、工作物に直接接触する部品です。ポンチや雄型、上型とも呼ばれます。製品の品質を高めるにはパンチとダイの位置関係を正確に保つことが極めて重要です。なお、プレス加工時にパンチが過度にのめり込むのを防ぐ部品がバッキングプレートで、バックアッププレートやバックプレートとも呼ばれます。バッキングプレートはプレスに対しての耐久度が必要なため、熱処理が施されています。
ダイ(die、雌型)
ダイはパンチと対をなす部品で、雌型や下型とも呼ばれます。抜き落とした製品、もしくはスクラップを落とすための穴の役割も果たします。下型全体を保持して下型の剛性を保ったり、下型の高さを調整したりするために使われるのがダイホルダです。
ブランクホルダ
ブランクホルダは鉄やステンレス、銅などの金属板がセットされたダイを押さえつける部品です。パンチで圧力を加えられた金属板は、歪みによりフランジ(後述)やダイの入口部にシワ(後述)が生じる場合があります。このシワを防ぐには、金属板をしっかりと押さえつける必要があります。その際、材料を押さえつけるのがブランクホルダです。ブランクホルダで押さえつけられた材料には、パンチによる圧力が正確に伝わり、適切に絞り込まれます。ただし、押さえる力が強すぎると円周方向に縮まない場合もあるので要注意です。加えて容器状の部分に材料が流れ込まないと、製品に割れ(後述)が発生します。絞り加工が抜き加工や曲げ加工より難しく、豊富なノウハウが必要とされるのは、シワや割れを発生させない最適条件を製品形状や材質、材厚に合わせて設定することが何より重要であるためです。
プレス金型の絞りのメリット、デメリット

プレス金型の絞りのメリットとデメリットをご案内します。絞り加工にはさまざまなメリットがありますが、ここでは加工速度、量産、高品質、強度、工数にスポットを当てます。一方、デメリットとしてはコストと加工難易度などがあります。ここではメリット、デメリットそれぞれの内容を詳しく解説します。
メリット
プレス金型の絞りのメリットとしては、加工速度に加え量産が可能といった点があります。また、高品質で、工数を削減できるのも絞り加工ならではの強みです。ここでは加工速度、量産、高品質、強度、工数について解説します。
加工速度
プレス金型の絞りは金型の製作に一定時間を要しますが、いったんプレス工程に入れば高速で製品を作ることができます。形状にもよりますが、単純形状であれば1個あたり数秒で完成させることも不可能ではありません。
量産
機械で自動化できるプレス金型の絞り加工は、長時間にわたって稼働させられます。したがって人の手が必要なヘラ絞りよりも大量生産向きで、特に単一製品を量産したい場合に絞り加工は最適な工法です。
強度
プレス金型の絞り加工では、材料の変形量が大きいので加工硬化が大きくなり、薄くても丈夫な加工品ができるメリットがあります。結果として、軽量化も同時に実現できる特長があります。
工数
プレス金型の絞り加工は前述のとおり、切削や溶接のない鍛造的加工であるため、他の加工法と比べ工数の削減が可能となります。結果として加工時間が短いので大量生産が可能です。
デメリット
プレス金型の絞りのデメリットをご案内します。絞り加工は加工速度や量産、品質、強度、工数などのメリットがある一方、いくつかのデメリットもあります。ここではその中からコストや加工難易度について詳しく解説します。
コスト
プレス金型の絞り加工では、プレス機とパンチとダイの2つの金型の初期費用が必要となります。ただし、プレス金型の絞り加工は前述のとおり、量産が可能な上、工数も削減できるといった強みがあり、それらのメリットを効果的に発揮できればコストダウンも可能です。ちなみに金型は、設計から含めると最低でも10日程度、複雑な製品ともなると1カ月以上の製作期間を要します。
加工難易度
プレス金型の絞り形状には浅絞りと深絞りの2つがあります。浅絞りは絞り深さが直径よりも小さい形状、反対に深絞りは絞り深さが直径より大きい形状を指します。特に加工難易度が高いのが深絞りです。深絞りの製品は1回の絞り加工では成形できないため、複数回繰り返して成形します。金型や機械、加工条件がバランス良く咬み合わないとシワや割れといった加工不良を招きます。微細なゴミが付着するだけでも、完成度に大きく関わるため、加工前には入念な計算が不可欠です。もちろん金型の精度も品質に大きく影響するため、準備には多くの手間と高度なノウハウが求められます。なお、絞り加工で平らな板から最初に絞る加工のことを初回絞り、2回目以降を再絞りなどと呼びます。
プレス金型の絞り加工の種類-異形絞り加工
プレス金型の異形絞り加工は、金属板(板金)を複雑な形状に成形する絞り加工です。異形絞り加工の製品は、自動車部品や電子部品などでよく見られます。異形絞り加工は、デザイン性や機能性の高い製品を成形できますが、様々な方向に力がかかるため、加工難易度が高くなります。
プレス金型の絞りによる不良例
プレス金型の絞りによる成形不良の一例をご紹介します。プレス金型の絞り加工では加圧調整が適切でない場合、さまざまな不良が発生します。加圧調整の難しさがプレス絞り加工の難しさともいえます。ここではプレス金型の絞り加工の不良の中から割れ、シワ(フランジシワ)、くびれのそれぞれの症状や改善策などをご案内します。
割れ
プレス金型の絞り加工による割れはその名のとおり、製品に割れ目が生じる現象です。割れは特に絞り加工の底部のR部と側壁部の境界で発生する傾向があります。割れる原因は絞り率が深く関係しています。したがって絞り率が小さい場合は、材料、板厚、対ブランク直径、絞り工程などに応じた絞り率に設計する必要があります。ほかにもクッション圧が高かったり、ダイやしわ押さえの面が粗いことなどが原因になる場合もあります。
シワ(フランジシワ)
プレス金型の絞り加工ではシワと呼ばれる不良が発生します。シワはブランクが金型に引き込まれるときに発生する傾向があります。シワの発生原因としては、しわ押さえの圧力が不十分だったり、パンチとダイのすき間、いわゆるクリアランスが大きかったりすることが考えられます。したがってシワが発生した場合は、シワ押さえがブランクを確実に押さえられているか確認したうえで、加圧が均一になるように調整する必要があります。パンチとダイのクリアランスにも注意が必要です。なおシワはフランジに発生しやすい傾向があります。フランジとは部品の結合や強度を増すためにつくるつば状の出っ張り部分です。
くびれ
プレス金型の絞り加工では、くびれと呼ばれる成形不良が発生する場合があります。くびれとはブランクが圧力に耐えられずに反ってしまう不良のことです。くびれの発生を抑えるには、ブランクへの加圧が大きくなりすぎないような調整が必要で、適切な加圧調整が極めて重要です。
塑性加工・プレス金型の絞り以外の加工方法
塑性加工であるプレス金型の絞り以外の加工方法をご案内します。ここではせん断加工、曲げ加工(ベンディング加工)、パンチプレス加工、圧縮加工のそれぞれの技術的特徴を解説します。
せん断加工
プレス金型によるせん断加工は、金型でプレスした素材を切断、分離する加工方法です。クッキーなどのお菓子作りの型抜きのように、必要な形状を打ち抜く抜き加工も、せん断加工のひとつです。せん断加工では、あらかじめ不要な部分を取り除いておくことで、その後の無駄な加工を減らせる場合があります。なお、普通のせん断加工とは異なり、トラブルの元となるダレ、破断面、バリといった断面形状を可能な限り無くし、綺麗な切断面を得るためのプレス工法は、精密せん断加工(Precision Shearing)と呼ばれます。
曲げ加工(ベンディング加工)
プレス金型による曲げ加工は、文字通り素材を曲げる加工方法です。プレス金型やプレス機械の種類により、V曲げやU曲げ、L曲げ、カール曲げ、ロール曲げ、ヘミング曲げなど、さまざまな方法があります。
パンチプレス加工
プレス金型によるパンチプレス加工は、タレットと呼ばれるホルダーに金型をセットして、これを加圧することで金属の板を打ち抜いたり、穴をあけたりする加工方法です。この方法はタレットパンチプレス、通称タレパンと呼ばれ、紙に同時に2つの穴をあける事務用品の穴あけパンチのようなイメージです。
圧縮加工
プレス金型による圧縮加工は、金型の中に材料を入れ、加圧して変形させる加工方法となります。圧縮加工には、押出、コイニング、ヘッディング、アプセッティングなどの方法があります。
プレス金型の絞りは染谷精機にお任せください
プレス金型の絞りは染谷精機にお任せください。弊社の絞り製品は多岐に渡りますが、特に人の目に触れる外装部品の絞り加工を得意としています。素材は鉄、アルミ、ステンレスが主で、形状によってはアンダー形状も可能です。金型製作を外注する金属加工会社は少なくありませんが、弊社は一貫して自社製作にこだわっています。自社製作することでコストダウンや納期の短縮など、お客様にさまざまなメリットをご提供します。ご要望に応じて完成品組立も承ります。さらに弊社は45t~200tまでのプレス機を保有しており、社内でトライ、検証、生産まで対応できる点も強みと自負しています。これらの強みを最大限に発揮し、弊社は弱電関係、建築関係、車載関係、販促品関係など、ジャンルを問わず、幅広い業界でご好評頂いています。弊社の機械加工技術は幅広く、せん断加工や曲げ加工(ベンディング加工、カーリング)、パンチプレス加工(タレットパンチプレス、通称タレパン)、レーザ切断、圧縮加工に加え、確かな熱処理(焼入れ・焼戻し・焼きなまし・焼きならし)、表面処理、工程設計などで豊富なノウハウがあります。なお、弊社はガスシールドアーク溶接、シームトラッキング溶接、被覆アーク溶接、オンザフライ溶接、鍛造、鋳造には対応しておりませんのでご了承ください。
単発型や順送り型、トランスファー型、ファインブランキング(打抜き)型を含む弊社の生産設備や形成研磨機、5軸制御立体複合加工機を含むマシニングセンター、ワイヤーカット加工機、NCフライス、ボール盤、ラジアル、旋盤6尺を含むその他の加工機や装置はホームページをご覧ください。工場見学も随時承っています。現場改善のご提案もお任せください。大量生産はもとより、多品種少量生産にも最大限対応させて頂きます。試作品もご用命ください。ご連絡お待ちしています。